ゆりのわか

超意訳!和歌考察!

#003  全ヲタクに勧めたい、推しへの愛を称える和歌

霞立つ 春の山へは とほけれど 吹きくる風は 花の香ぞする

 

和歌における大きなテーマは「愛」です。

現代の私たちも、彼ら同様様々なものに「愛」を持っています。

家族に友達に恋人に、そして好きな芸能人に。

その意味で、和歌で歌われた愛が、

形は違えど、他の愛と通じることもあると思うのです。

 

この歌は元々、

在原元平(業平の孫)が詠んだ歌です。

春、京都の都から山を眺めると、霞がかかって遠くの山々がぼんやりとしている。それなのに、山から吹いてくる風は花の甘くて優しい香がすることよ。

 

平安時代の京都がどのような情景だったかと言えば、

きっと今よりも空気が綺麗で、そして建物が少なく、貴族の邸宅には木が多く、花の香がより溢れていた空間だったのではないかな、と思います。

山だって今の五山のように、「the木」という訳ではなく、桜や梅で覆われていたのかもしれませんし、もしかしたらこの山は、桜の名所・奈良の吉野の山のことなのかもしれません。

 

肝心なことは、

香りの元は遠く離れているはずなのに、花の香がすること。

純粋にそれは、距離を感じさせないほど、お山の花の香が強いからかもしれません。けど、それは歌い手の花への鋭い感性もあってのことだと想います。

 

 

私は、これは

現代の「ファン視点の、アイドルとファンの関係に近い」と思っています。

ファンにとってアイドルは遠い存在です。

彼ら・彼女らから見えている景色をリアルに体感することは出来ないし、今何を考えてるかなんて本当のことは分からない。

事務所やお金やビジネスのフィルターのフェイクがかかり、春の霞のように、彼らの実像はぼやけてしまうほど遠い存在なはずなんです。

だけれど、そうだとしても、それでもその遠くにいる彼らから発せられる魅力はこんなにも素敵で、私たちを魅了してくれる。

遠いけれど、まるで近くにいるような気持ちにさせてくれる。

元気をくれますよね。

 

ここで考えたいのは、なぜ「遠くにいるのに花の香を感じる」のでしょうか。

花の香り・魅力が距離をものともしないほど、強烈なのかもしれません。

もちろんそれもあるでしょう。

でも、それだけだめなんです。

「遠くにいる花の香を近くに感じられる」のは、

聴き手が花のことを気にかけているから。意識しているからだと私は思います。

 

星の王子様にもこんなお話がありますよね。

世界一綺麗だと思って育てていた薔薇は、実は何の変哲もない薔薇だった。

でもその薔薇が王子様にとって特別なのは、

それは王子様が手間暇をかけてその薔薇を大事にしたから。

愛着こそが関係を特別にするというお話です。

 

アイドル自身が強く輝いているだけでなく、

ファンがアイドルを思い遣る、

そんな気持ちがあってこそ、距離を「近くに」感じることが出来るのかなと

思います。

 

良い関係!